本記事の数字の扱い: 表の数字は、表の直後の注に出典をまとめました。
「壁を抜いて、広いリビングにしたい」。中古マンションの内覧でよく聞く希望です。ところが不動産会社は「たぶん大丈夫だと思います」、リフォーム会社は「現地を見ないと何とも」。わからないまま契約の判断だけが迫ってくる——一番つらい状態です。
間取り変更の可否は、構造・配管・管理規約というゲートで決まります。このうち構造と管理規約は、契約前に手元の資料だけで判定できます。
| ゲート | 何で決まるか | 契約前に判定 | 見る資料 |
|---|---|---|---|
| ①構造 | 抜ける壁か、抜けない壁か | できる | 建物の階数・平面図・構造図 |
| ②配管 | 水まわりをどこまで動かせるか | 一部できる | 床の工法(直床/二重床)・PSの位置 |
| ③管理規約 | 管理組合が認めるか | できる | 管理規約・使用細則 |
※①〜③はゲートの通し番号で、主張数値は含みません。
①と②を自分で判定する方法を、法令の数字まで下りて説明します。
マンションの構造には、柱と梁で支えるラーメン構造と、壁そのもので支える壁式構造があります。壁式は、部屋を仕切る壁が同時に建物を支えています。
最初の手がかりは建物の階数です。壁式は、法令で使える規模が決まっているからです。壁式鉄筋コンクリート造は「地階を除く階数が五以下・軒の高さは二十メートル以下」、壁式ラーメン鉄筋コンクリート造は「地階を除く階数が十五以下・軒の高さが四十五メートル以下」とされています(出典は下表の注)。
| 建物の階数 | 取りうる構造 | 室内の壁の抜きやすさ |
|---|---|---|
| 5階建て以下 | 壁式RC造/ラーメン構造 | 壁式なら制約大。団地・低層は要注意 |
| 6〜15階建て | ラーメン構造/壁式ラーメンRC造 | ラーメンなら自由度が高い |
| 16階建て以上 | ラーメン構造など | 壁式系の告示の適用範囲外。壁式系では建てられない |
※表中の「5階建て以下」「15階」の出典=2001年(平成13年)国土交通省告示第1026号 第一 一「地階を除く階数が五以下で、かつ、軒の高さは二十メートル以下」/同第1025号 第一 一「地階を除く階数が十五以下で、かつ、軒の高さが四十五メートル以下」。「6階」「16階」は、上記の上限のそれぞれ直上の階として導いた区分名です。
ただし階数だけで断定はできません(ラーメン構造でも室内に耐震壁を入れた物件があります)。最初のふるいとしてお使いください。
壁式は「元からある壁を壊してしまうと耐震強度の低下を招く恐れがあります」と日本コンクリート工学会の解説論文も指摘する工法で、公営住宅や日本住宅公団の共同住宅に広く採用されました(同学会「コンクリート工学」56巻2号・2018年 p.168)。
サイン1:部屋の隅と天井際の出っ張り。 同論文は壁式の利点として「柱型や梁型が室内に出てこない」ことを挙げます(同 p.168)。裏返せば、部屋の四隅の太い出っ張り(柱型)や、天井際を横に走る出っ張り(梁型)があれば、ラーメン構造の可能性が高いということです。
サイン2:図面に書かれた壁の厚さ。 耐力壁(構造壁)の厚さにも、法令の下限があります。
| 階の位置(3階建て以上) | 耐力壁の厚さの下限 |
|---|---|
| 最上階 | 15cm |
| その他の階 | 18cm |
| 地階 | 18cm |
※表中の厚さの出典はすべて2001年(平成13年)国土交通省告示第1026号 第六 五 イ 表一「地階を除く階数が三以上の建築物 最上階 一五/その他の階 一八/地階 一八」(単位 センチメートル)。同表一により2階建ては15cm、平屋は12cm。壁式ラーメンRC造の耐力壁も「厚さは、十五センチメートル以上」です(告示1025号 第五 一 イ)。
つまり、平面詳細図で厚さ150mm・180mmと記された壁(上の表の注の15cm・18cmをmmに換算した値)、断面が塗りつぶし(ハッチング)で描かれた壁は、構造壁の可能性が高い。間仕切り壁はそれより薄く、細い平行線で描かれます。
動かせない壁には、次のものがあります。
国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型・2025年〈令和7年〉改正)は、専有部分を「天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする」と定めます(第7条第2項第一号)。コンクリート躯体そのものは共用部分で、その表面から内側が専有部分です。
なお建築確認申請は、間仕切り壁の撤去だけなら原則不要です(理由は末尾のFAQで)。ただし法をクリアすることと工事ができることは別で、管理組合の承認が残ります。
「壁の撤去◯◯万円」という数字はネット上に大量にありますが、集計元と母数が示されているものはごくわずかです。
まず使えなかった数字から。リフォーム比較サイトの「マンションの中心価格帯」は、2026年7月21日に取得して確かめたところ、マンションと戸建てで値が分かれておらず、集計対象が日々入れ替わって金額が動くものでした。固定の数字として引用できないため採用していません(2026-07-21 取得・検証)。
引用できたのは次のデータだけでした。壁の撤去そのものは、1.8m(ドア約2枚分)で11,000〜19,000円、2.7m(同約3枚分)で14,300〜25,000円、3.6m(同約4枚分)で17,600〜31,000円という見積もり集計があります(ミツモア「壁の撤去・間取り変更リフォーム」直近2年間の見積もり料金より算出、2026年7月21日更新)。ただし集計件数は非開示で、資材・養生・撤去・廃材回収までの費用です。壁をなくすと天井・壁・床の仕上げがつながらなくなるため、補修や配線移設まで含めた合計で見てください。
そして——「動かす」ことそのものの費用には、出典と母数を明示した公開データが見当たりませんでした。ですので当社は書きません。床構造とPSまでの距離で桁が変わるため、図面を見て個別に出すほかありません。
相談で多いのは「キッチンを対面に」「浴室を広く」です。ここで効くのは構造ではなく排水管の勾配。排水は重力で流すので、管を水平に近づけると詰まります。標準の勾配は管径65mm以下で1/50、75mm・100mmで1/100、「勾配が取れない場合でも最小流速0.6m/秒を確保する必要があります」(一宮市上下水道部「排水設備指針」第3章)。
1/100は1m動かすごとに1cm下がる。例として、管径100mmの排水を3m動かせば3cm、5mなら5cm(3m・5mは説明のために置いた仮定の距離です)。器具の立ち上がりと配管の外径も加わるため、必要な床下の高さ(ふところ)は下がり幅よりさらに大きくなります。だから移動の可否を決めるのは床の工法です。スラブに床材を直接張る「直床」はふところがほとんどなく大きな移動は困難、支持脚で床を浮かせる「二重床」は自由度が上がります。
器具ごとの管の太さも同じ指針にあります。トラップの最小口径は洗面器30mm、調理流し40mm、浴槽(洋風)40mm、大便器75mm(同指針 表3-1)。つまり移動しやすいのは管の細い洗面とキッチン、難しいのは口径の太いトイレと、防水パンごと動かす浴室です。
管理規約も同じ点を見ています。標準管理規約は給排水管の改修工事の承認条件に「排水勾配が確保されていることを確認する」を挙げ、「大規模なリフォーム工事」には「はつり等により躯体に悪影響を与えないこと」としています(同規約 別添2)。床を削って配管を通す逃げ道は使えません。
動かせない壁があっても、広さの体感は設計で変えられます。実は一番差がつくのがここです。
当社の定額制のフルリノベーションプラン398万円(税抜)/437.8万円(税込)も、この考え方でできています。和室のアレンジ(洋室化・新畳・リビング統合)と押入れのクローゼット/パントリー変更が基本価格の側、「壁の一部解体」はオプションの側です。実際の施工例では、建具の全面変更・壁の一部解体・床のかさ上げ・電圧アップ・専用配線・R壁の造作を追加して約650万円でした。LIVANA(リバナ)では予算目安を100万〜600万円/400万〜1,200万円/900万〜2,500万円と公開しています。
構造と配管がクリアでも、管理組合の承認がなければ工事はできません。標準管理規約は、理事長の承認が必要な工事の具体例に「床のフローリング、ユニットバスの設置、…配管(配線)の枝管(枝線)の取付け・取替え、間取りの変更等」を挙げます(同規約コメント 第17条関係②)。名指しです。床材にも条件があり、別添2は床材の張り替えの承認条件を「新築時と同等以上の遮音性能を確認する」としています。カーペット敷きの築古物件をフローリングに変えるとき、ここでつまずきます。規約で制限されやすい工事と確認の手順は、マンションリノベと管理規約|できる工事・できない工事にまとめました(構造による可否がこの記事、規約による可否がその記事です)。
①階数を数えて部屋の隅と天井際を見る、②販売図面で壁の厚さとPSの位置を見る、③管理規約と使用細則を取り寄せる。これで、「たぶん大丈夫」は「この壁は動く/この壁は動かない」に変わります。
ここから先——その物件でやりたい間取りが実現できるか、できないならどう代わりの手を打つか——は、図面と現地を見ないと出せません。気になる物件のURLやチラシがあれば、無料相談にお持ちください。
Q. マンションの間取り変更に建築確認申請は必要ですか?専有部分の間仕切り壁の撤去・新設だけなら原則不要です。確認が要る「大規模の修繕・模様替」は主要構造部の過半の工事を指し、そこから「構造上重要でない間仕切壁」が除かれているためです(国土交通省「建築物の改修における建築基準法のポイント説明会」2025年(令和7年)11月更新 スライド13)。管理規約に基づく理事長の承認は別途必要です。
Q. 壁式構造では、間取り変更はまったくできないのですか?できないわけではありません。耐力壁でない間仕切り壁は撤去できる場合があります。目安は厚さで、壁式RC造の耐力壁は3階建て以上で最上階15cm以上・その他の階18cm以上(2001年〈平成13年〉国交省告示第1026号)。明らかに薄い壁は非構造壁の可能性があります。
Q. 隣の住戸との間の壁(戸境壁)は抜けますか?抜けません。共用部分にあたり、専有部分の工事の対象外です。標準管理規約は専有部分を「天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分」と定めています(第7条第2項第一号)。隣接する住戸をつなげる工事は、管理組合の承認と構造の検討が別途必要です。
Q. キッチンを壁付けから対面にしたいのですが、費用はどれくらいですか?位置を動かさず向きだけ変えるなら、勾配の問題は生じにくい工事です。金額は、第4章のとおりマンション限定の相場として引用できる公開データが見当たらなかったため書きません(比較サイトの「キッチンの相場」は交換・改装の金額で、移動は含みません)。大きく動かす場合は、標準勾配1/50〜1/100(一宮市上下水道部「排水設備指針」第3章)の分だけ床のふところが要ります。
Q. 中古を買う前に、間取り変更の可否を確認する方法はありますか?あります。①建物の階数(5階建て以下なら壁式の可能性)、②販売図面・竣工図での壁厚とPS位置、③管理規約・使用細則、の順に確認します(①の根拠=2001年〈平成13年〉国土交通省告示第1026号 第一 一「地階を除く階数が五以下」)。竣工図は仲介会社経由で管理会社に請求できます。当社では購入申込みの前段階で、これらを一緒に確認しています。
気になる物件のURLやチラシ、販売図面をお持ちいただければ、構造・配管・管理規約の3つのゲートを一緒に確認します。購入申込みの前段階からご相談いただけます。
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