職人より:見えなくなる部分こそ、丁寧に
仕上がった家を見て、褒めていただけるのは嬉しいです。ただ、私たちが本当に手をかけているのは、その日には見えなくなっている部分です。大工として現場に入る立場から、書けることを書きます。
壁を閉じる前の一日が、10年を決める
下地、断熱、配管、電気の配線。ここは仕上げてしまえば誰にも見えません。ですが、住んでからの不具合のほとんどは、この見えない層で起きます。床鳴り、建具の建て付け、コンセントの位置が家具に隠れる。どれも仕上げ材の問題ではなく、その下の話です。
だから壁を閉じる前の一日は、いちばん時間をかけます。急かされても、ここだけは縮めません。
「新築と違って、リノベは相手が既にある。壁も床も、まっすぐではないんです。そのズレをどこで吸収するかを決めるのが、この仕事のいちばん頭を使うところです。まっすぐな材料をまっすぐ付けるだけなら、誰でもできますから。」
段取りと掃除は、品質の一部です
職人の腕は、切った貼ったの精度だけではありません。材料をどの順で入れ、どこに置き、どの工程を先に終わらせるか。段取りが崩れると、仕上げの精度は必ず落ちます。乾燥が足りないまま次を重ねる、他の職人の作業とぶつかる、置き場が無くて材料が反る。事故はだいたいここから起きます。
掃除も同じです。現場が散らかっていると、傷と汚れの原因になるだけでなく、そもそもミリ単位の仕事ができません。当たり前のことを当たり前に積み上げる。それが結局いちばん近道でした。
「元に戻せるか」で線を引く
お客様から「ここは自分でやってみたい」と言われることがあります。私は歓迎です。ただ、元に戻せるかどうかで線を引くようお伝えしています。塗装、棚板、可動棚のダボ、壁紙の一部。この辺りは失敗しても戻せます。反対に、下地に穴を開ける、配線を触る、水に関わるものは戻せません。ここは任せてください。
マンションの場合はもう一つ線があります。国土交通省の令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)第7条第2項第三号は「窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。」と定めています。自分の家の窓に見えても、規約上は自分だけで決められません。
同じ社内にいる、という強み
当社は大工が社員です。設計や現場管理と同じ会社にいるので、図面で気になった点をその場で言えます。「この納まりは現場で無理が出る」と早い段階で言えるかどうかで、あとの手戻りが変わります。年間200件以上の建築プロジェクトが動いている中で、この距離の近さがいちばん効いていると感じます。
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